今回は公認会計士から投資銀行に転職したいという会計士の方に向けて投資銀行で勤務する方と話す機会がありましたので、公認会計士の投資銀行への転職について解説したいと思います。
外資系の投資銀行勤務だと30そこそこの年齢で数千万の給与を稼げる可能性があり、会計士の中でも高学歴で在学中に合格した方の中では、将来的には外資系投資銀行に行きたいと思っている方が一定数いました。
公認会計士にとって、投資銀行業務は会計監査領域から一歩踏み出してファイナンスの分野にもキャリアを展開することができ、新聞やニュースを賑わせるようなビッグ・ディールに携わることができるやりがいのある仕事で報酬面の見返りも非常に大きいです。
一方で、監査という守られた独占業務から非常にハードワークで過酷な世界で競争に勝ち抜かなくてはなりません。
公認会計士の監査法人からの投資銀行への転職、投資銀行の後のキャリア、報酬水準等について解説していきます。
監査法人から投資銀行へ転職するのはハードルが高い
元同僚にも、外資系の金融機関へ転職していく方たちがいました。
しかし、そのポジションとしては、バックオフィスが多い傾向にあります。
当然ながら、投資銀行にはフロントと呼ばれるバンカーの人たち以外にもたくさんのポジションがあります。
例えば、経理部門や人事部門、内部監査や法務部門などいわゆるバックオフィス系の部門です。監査法人の会計士の人たちが転職していくのは、フロントではなく、外資系金融機関の経理や内部監査部門が多い傾向にあります。
たしかに普通の事業会社の経理よりは、給与水準は高いといえます。
監査法人の会計士がシニアレベルで転職する場合は1,000万円前後、Vice Presidentレベルで転職すると1,500万ほどが見込めるかもしれませんが、フロントの方のように数千万円レベルの給与をもらえることはまずないでしょう。
投資銀行で働く人が成功者としてみられ、人気があるのはやはりその給与が主な理由かと思います。
30そこそこのサラリーマンの身分で数千万円を稼ぐのは、フロント(IBD)でないとまず無理でしょう。
なお、投資銀行のバックオフィスへ転職したい場合は、監査法人の金融部で、金融機関の子会社のリファードワーク等の経験を積むと評価されやすいでしょう。
又、監査での経験が投資銀行のフロントで要求される能力とスキルとマッチするというと疑問です。
ここでのフロントというのは、「引受け業務」と「FA(ファイナンシャルアドバイザリー)業務、コーポレートファイナンス業務」を指すとしますが、いずれも普通に監査法人で働いているだけだと関連する業務経験は積みにくいでしょう。
従って、監査法人から経理等のバックオフィス部門へ転職する可能性は十分にありますが、監査経験のみであれば、ポテンシャル採用を除き、スキルを活かしての転職という意味では難しいのが実情ではないかと思います。
知り合いの中には、投資銀行のフロントで転職してバリバリ活躍している人がいるという方もいるかもしれません。
しかし、その方の年代はどうでしょう。おそらく一回りか二回り上の年代なのではないでしょう。今は、DCF法というキャッシュフローをベースに金融商品の価値を算定する方法が世に広く知られておりますが、昔は、財務諸表からキャッシュフローを算定することができるスキルを持つ人材が少なく、投資銀行で会計士を採用していた時代があったようです。今は普通に書籍にも載っていますし、スキルをもった方は山ほどいます。
投資銀行のフロントで働きたい場合は、監査法人を経由するのではなく、直接投資銀行へ大学卒業後、目指す方が可能性としては高いのではないかと思います。
又は、市況がよいという前提がありますが、在学中に合格し22歳~25歳の年齢でかつ英語力あれば、そのまま監査経験を積んで経験者採用を受けるよりもポテンシャル採用の方が可能性としては高いでしょう。
投資銀行に転職する方法
とはいっても監査法人から投資銀行に転職するのは、ハードルは高いのは確かなもののゼロではありません。
会計士が投資銀行に転職する道について、投資銀行で勤務する方と話す機会がありましたので事例を紹介したいと思います。
国内投資銀行へ転職する
投資銀行というと外資系投資銀行(IBD)ばかりが注目されますが、25歳ぐらいまでの若い方であれば、日系の投資銀行へ転職するというのも可能性としてはあります。
ポテンシャル採用で外資系投資銀行へ転職するよりもハードルとしては低くなります。
その後、外資系投資銀行を目指すとしても株式引き受けやFAとしての経験を多く積めるのであれば、FASよりもスキルセット的には近い経験が得られるでしょう。
大手メガバンク系の証券会社では、大手監査法人のみの経験者でも応募要件を満たしている求人が実際複数ありました。
デメリットとしては、監査法人よりは高いですが、外資系投資銀行に比べると給与水準が高くはないことです。
未経験だと一番下っ端の職階であるアナリストとなるケースが多くなります。
日系のアナリストだとベース700~800万程度となり、投資銀行の給与をイメージするとがっかりするかもしれません。
ただ、VicePresidentまで昇格すると1,500万は超えてきますし、外資に比べると安定性も高いので、居心地がよければそのまま勤めてもよいですし、その後の外資系投資銀行に転職するにしても経験になるので、悪くない選択肢でしょう。
FASを経由して転職する
監査法人には、FASと呼ばれるアドバイザリー会社を併設しています。トーマツだったらデロイト トーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社、あずさだったらKPMG FASです。
FASは、Financial Advisory Servicesの略で主にM&Aをはじめとする財務関係のアドバイザリー業務を提供しています。
FASにも様々なサービスラインがありますが、主に財務DDを行うTransaction service部門(TS部門)での採用が監査経験のみの会計士の場合は多い傾向にあります。
FASはあくまでコンサルティングの立場からのアドバイザリーであるのに対して、投資銀行では資金調達の支援まで行う等サービスラインが広い、扱う案件の金額も大きいものが多くなるといった違いはありますが、投資銀行にもM&Aアドバイザリー業務部門があります。
TS部門での業務内容は、DDのみの経験だとM&Aの一部のみの経験になりますが、TSから異動し、Valuation の部門やCorporate Financial AdvisoryでFA経験があれば、FASでの経験は投資銀行のM&Aアドバイザリーでも生かせるものです。
業務としては、同じような内容であっても、取引の金額が大きく違う点や資金調達等のサービスもあわせて提供していることから給与については、投資銀行の方がFASよりも高くなります。
上記のような理由から、監査法人のTSから投資銀行への転職はそれなりに見受けられ現実的です。FASにも元投資銀行出身者が見られます。
英語が話せるとか、証券アナリストの資格はもっていて金融には最低限の解があるといったことは示した方がプラスになります。
従って、監査法人系のFASのTSを経験してから投資銀行というのは有力なルートです。
FASへの転職については以下記事で扱っています。
経理などバックオフィスから異動する
上記でも触れたように監査法人から監査経験のみで投資銀行に転職しようとするとバックオフィスの方が転職しやすい傾向にあります。
管理部門にいったん転職してからフロントに異動することも不可能ではありません。
投資銀行中でも外資系投資銀行の場合は、日系企業のようにジョブローテーションで異動するという可能性はあまりなく、一つのラインで専門性を極めるキャリアの積み方が主流のようですが、一応内部で異動の機会もあるにはあるようです。
但し、このルートはこのようなケースもあります程度に考えた方がよいでしょう。
海外MBAを経てから転職する
英語が話せて金融のバックグラウンドがある人材はさほど多くはありません。
監査法人を退職し、海外MBAへいき、その後外資系金融機関に行くケースも会計士の中でも上澄みのケースですが、見受けられます。
投資銀行では海外MBAが評価され、それに加えて、TSも少し経験していると十分でしょう。但し、MBA取得までは年数がかかるので、その時に年齢を考えると若くないと厳しいでしょう。
投資銀行の年収
投資銀行の年収は日系と外資で大きく異なってきます。
投資銀行の職階は以下のようになっていることが多く、報酬の相場感は以下の通りです。下記はベース給でここにインセンティブ(ベース給の30%~100%程)がプラスされます。
報酬はあくまで一例になり、個別企業や個人の評価により異なります。
会計士で未経験の場合は一番下のアナリストからスタートとなることが多く、2年~4年程度で昇格していきます。
・アソシエイト(4年目~6年目) 1,000万~1,400万
・ヴァイス・プレジデント VP(7年目~) 1,500万~
・マネージング・ディレクター MD 2,500万~
日系の投資銀行の場合は、金融機関によっても異なりますが、外資系と比べると低めな傾向にあります。特に成果給の部分のボーナスで大きな差があります。
外資系投資銀行は、年棒の倍以上のボーナスが付与される可能性もあり、30代で数千万円の報酬を得る可能性もあります。
ボーナスは成果報酬で決まり、若手であってもボーナスで数百万の差が生まれることもあります。又、ボーナスが一定金額を超える場合は、ストックオプションで株式の形で受け取ることもあります。
ストックオプションは、ベンチャー企業でよく耳にするストックオプションとは異なり、RSU (Restricted Stock Unit、制限付き株式)といい、同じ会社に3~5年以上勤続した場合に限り全額行使できるといった条件が付いていることが多いです。
日系の場合は、そこまでの差がつくことは多くはないですが、近年は外資系投資銀行に対抗するために、日系投資銀行でも高年俸の評価制度やインセンティブボーナスを導入しているところもあります。
又、個人業績以上にマクロ要因である業界全体の景気に左右されることが多く、リーマンショック時には0~数百万円程度になってしまったようです。浮き沈みが激しい業界であることは意識しておいた方がよいでしょう。
その他、大手であれば、家賃補助や借上げ社宅、その他様々な福利厚生が用意されていることが多く、監査法人に比べると手厚い傾向にあります。
投資銀行からの転職先
上記のように報酬面では、非常に恵まれた業界ではあります。
しかし、特に外資系投資銀行で考えなければならないのは、年収の持続可能性です。
外資系は、日系に比べて報酬水準ではかなり高いものの、終身雇用ではないため、雇用の安定性は低い傾向にあります。
4年程度で昇進をし続けないとリストラにあうことがありますし、MD以上は非常にハードルが高いです。
周りの人間も非常に優秀で、会計分野についても専門領域ではない方でもすぐにキャッチアップしてついてきますし、肉体的にも精神的にも非常にタフです。
そのような中で昇進し続けるのは、非常にハードルも精神的、肉体的負荷も高いでしょう。
MD以上になっても45歳程度で部長や執行役員等のマネジメント層になっていないと同じ会社で上記のような報酬水準を維持してずっと働き続けるということは難しいのではないかと思います。
そのため、投資銀行へ進む場合は、次のキャリアもある程度イメージしておいた方がいいでしょう。
投資銀行へ転職した場合、専門分野は会計からファイナンス分野に軸足が移ります。
報酬水準を考えても監査法人や税理士法人、事業会社の経理といった会計・税務分野に戻る人はあまり多くありません。
投資銀行からのキャリアとしては、ファイナンスよりのキャリアが多い傾向にあります。
その他の公認会計士のキャリアについては以下の記事でまとめています。
まとめ
外資系投資銀行へ転職するには、年齢が20代前半と若く英語力も十分であれば若手のポテンシャル採用の可能性もあります。
年齢がある程度いっているのであれば、外資系よりもハードルが低い日系投資銀行やFASで実務経験を積んで転職するといった道も考えられるでしょう。
投資銀行への転職を目指すのであれば、かなりハードルは高いため、事前の準備が必須でしょう。会計士の専門エージェントであるマイナビ会計士や金融専門の転職エージェントであるKOTORA等でエージェントに話を聞き、情報収集をしておくとよいでしょう。
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