事業会社の経理のみならず、監査法人から経営企画へと転職し活躍している会計士が増えています。
BS/PL/CFを一体として読めて、数字の全体感をつかむ素養があるということで企業内会計士として活躍している方も多いです。
今回は、会計士の経営企画への転職について取り上げます。
事業会社の経営企画の仕事内容 経営企画は何でも屋?
経営企画の仕事内容・範囲は、企業により異なることも多いです。
よく経営企画の人が何でも屋でなんでもやりますというのを聞きます。
私も経営企画の経験もあるのですが、どの部署の守備範囲に入っているのかわからない仕事を拾い、他の部署と調整し、整理していく調整屋という特徴もあるのではないかと思います。
会社の規模やステージ、財務会計が強いか管理会計が強いかによっても変わってきますし、社内の位置づけによっても変わってきます。
例えば、予算管理が主になる会社もあれば、経理の財務会計と兼務で行っている会社もあります。戦略立案・実施等事業を考えることがが主な役割の会社もあります。
要は、経営企画といっても会社によって役割が大きく異なります。
代表的な経営企画の仕事内容を挙げると以下の通りです。
■中期経営計画策定
・事業戦略の企画、立案、策定、中期売上・利益目標の策定、ファイナンシャルプランニングなど会社の規模によっては、社長や各部の役員と直接やり取りをして、数字を作っていくことになり、責任も大きい仕事です。
■予算の策定、モニタリング
・各部署、国内外子会社の予算立案、予実分析と経営会議報告資料作成
予算の策定は、監査法人にいると中々感覚がわからないのですが、予算は賞与評価と密接に結びついており、現場はあの手この手で経費の予算を大きく取ったり、売上を保守的にしたりとしてきます。
当然、各部署や子会社から上がってきた数字をそのまま集計・報告するだけではだめで、経営層と求める数字のギャップを埋めるため、各部署との調整が必要になります。
各部署もポジション的にかなり高い人とやり取りする必要があり、必死で主張してくるので、精神的にきついことも多いです。
又、会社によって予実管理のスパンは異なりますが、月次、四半期、年度で各部署から上がってきた数字を精査し、予算が達成できそうなのか、追加の施策が必要なのか各部署とやり取りすることになります。
■海外子会社管理
海外子会社が傘下にある会社は、海外子会社の管理を経営企画で行っていることがあります。
このような会社では、英語力があると重宝されます。
■合併・買収・提携対応
・企業価値算定、買収スキーム策定、投資リターン算定、資金調達方法策定、デューデリジェンス対応、買収後のPMI対応、その他コンサルや専門家との連携
合併・買収については、デューデリジェンスや企業価値算定を外部の専門家を利用して行うことがほとんどかと思うのですが、その対応の際には監査経験やFAS経験が活きてきます。
会社法関連の知識も役に立ちます。
■会議体の運営
・経営会議、取締役会の運営
・各種規程直し・策定
経営会議や取締役会の資料作成も行い、経営会議、取締役会に出席し、司会進行や議事録作成等を行うのも経営企画の仕事の一つです。
又、決算説明会の運営等のIR活動も合わせて行っている会社もあります。
最近だと特にベンチャー企業においてマーケティング部門の責任者が経営企画を担当することも少なくなくありません。
事業部の経営企画とコーポレート(本社)の経営企画
又、ある程度の大手企業だと事業部の経営企画とコーポレート(本社)の経営企画が存在する会社もあります。
事業部の経営企画は、事業を行う営業やマーケティング、商品企画部門等の現場の人たちと一緒になって事業を推進していく役割を担い、どのように事業を成長させていくのか、そのために必要な投資は何なのかといったことを考えるポジションです。
後者のコーポレート(本社)の経営企画は、各事業部付きの経営企画の人とコミュニケーションをとりながら、各事業部の予算を取り纏め、事業全体のポートフォリオの管理や全社的な視点での戦略立案を行います。
事業部付きの経営企画だと監査法人勤務の会計士の場合は、実際に営業経験がなかったり、商品の企画経験がない場合がほとんどで、そのような現場の人たちをサポートをするというのはなかなか難しく、かなりのキャッチアップが必要です。
又、時には採算性の悪いものを切り、利益率をあげるという視点で事業を行う人達と相反する立場に立たなければならないこともありますし、本社からの指示に従わなければならないこともあり、コミュニケーション能力が問われる職種です。
ただ、事業をサポートしていきたい、当事者としてかかわっていきたいのであれば、非常にやりがいのある仕事です。
又、後者のコーポレート(本社)の経営企画は、各事業部から上がってきた数字を積み上げて全社の予算を作成・戦略を立案する立場になります。
事業部から提出された数字が過度に保守的・楽観的であれば、予算の再作成をお願いしなければなりませんし、事業部の戦略が会社全体として整合性のとれたものになっているか、事業ごとの投資額、縮小していくべき事業はあるか等会社組織の規模が大きくなればなるほど難易度の高い仕事です。
コーポレートの方が現場からは遠い立場にいて、予算の整合性チェックやリスクの考え方、財務分析等会計士としての経験が生かせますが、事業部付きの経営企画の経験がないとどうしても現場の理解が足りず、事業部ごとの予算が実態に照らして適切か効果的なレビューを行うことは難しいです。
従って、まずは事業部の経営企画から始めて、経験を積んでからコーポレートの経企という方が遠回りのようにみえますが、近道というケースもあります。
監査経験は経営企画の仕事に活きるのか
経営企画の仕事は多種多様なので、何をやるのかにもよるところもあります。
予算策定時にはやはり監査で培った全体の数字感や会計処理の基本的な考え方が活きてきます。
現場にヒアリングする際に、その事象は財務諸表にどのように反映されるのか、引当が必要ではないかといったことに気が付いて、予算に織り込めるかどうか、より深堀りできるかどうかは、会計に強い会計士が活躍できる場面かと思います。
実際に現場の中には会計に明るくなく、キャッシュベースで考える人も多く、よく話を聞いてみるとそれは来期の費用になるので、来期の予算になりますねといったことにヒアリングで気が付くこともあります。
相手の話を聞いて話を引き出す、ヒアリングをするというのは、監査の基本ですので、監査経験は一定程度いきるといえるでしょう。
又、業績の分析をする際にも監査で培った異常点分析のスキルは活きるでしょう。
大枠を捉えた増減分析をして、違和感を感じる部分をブレークダウンして、原因を探っていくことが自然にできるスキルは、監査法人出身の会計士の強みかと思います。
会計士として培ったスキルは、経営企画でも生かすことができるといえます。
ただし、コミュニケーションに難がある場合は、活躍は難しいのではないかと思います。
公認会計士の場合、財務分析や組織再編、会社法関連の知識や経験が評価されるので、M&Aを積極的に行う企業でまずはM&Aを中心に強みを活かせる分野で働いてみるという考え方もあると思います。その後、実績を出してから他分野に挑戦するという手もあります。
経営企画というと地味な経理に比べて華やかな印象もありますが、会社やポジションによっては他部署の調整等非常に泥臭い仕事内容になり、ギャップを感じて転職してしまう会計士も多いです。
典型的な会計士の転職失敗ケースといえるでしょう。
会計士が経営企画に転職して失敗するケースで多いのが、数値や業界での立ち位置を分析をし、施策を立てるまではできるのですが、現場への落とし込みや他部署との調整等コミュニケーションで失敗するケースです。
又、会社のビジネスモデルの理解という面でのキャッチアップができなかったり、営業や現場の折衝でその会社特有の文化等を無視して、強引に進めてしまい、信頼を失うこともあります。
上記にも記載したように企業によって業務内容は大きく異なり、M&A戦略の企画を中心に採用される場合もありますし、規定管理等や社内体制の構築までなんでもやるような企業もあります。
そのため、自分が会計士として培ってきたスキルや経験を棚卸をし、自分自身がどのような仕事・キャリアを積みたくて経営企画への転職を目指すのか、それを実現するためにはどのような企業の経営企画のポジション・どのような役割を持つ経営企画へと転職するのがよいのかをじっくりと考える必要があるでしょう。
公認会計士が経営企画へと転職する魅力と適正
会計士が経営企画として転職して得られる魅力としては、その仕事内容の特性上、例えばM&Aをするにしても、経営層、社内の経理、法務、税務部門といった社内部門、弁護士、会計士等の外部専門家等様々な人たちと一緒に業務を遂行していく必要があります。
自身とは違うバックグラウンドをもったプロフェッショナルの方からいろいろ学べることもあります。
予算を策定するためには、ビジネスの理解が不可欠なので、社内の各部門、現場の方々の話も聞く必要があります。
又、経営者に近いところで仕事をするので、経営目線で物事を見る能力もついてきます。
上記のように会計士であることに縛られすぎないで、会計監査という自身の得意領域のみならず、様々な分野の専門家と接することで視野が広がります。
又、給与面でいうと経理よりも企画的要素が強く、トップマネジメントに近い立場で仕事をするため、経営企画の社内的な立場が強い企業も多く、年収が高くでやすい傾向にあります。
経営企画職では、ビジネスモデルや業界構造の理解が重要なので、次に転職する際にどの業界での経営企画職に就いていたかも影響してきます。
但し、公認会計士が転身する場合の注意点としては、業務範囲が広くなる分、専門性は自分でキャッチアップしないと落ちていく点です。
専門性については、各分野の専門家と内容を理解して話ができるレベルにあれば、足りてしまうことが多いからです。特定の分野を深くというよりも様々な分野を浅く広く、数字に対する感覚がするどいといったことが求められます。
自分が専門性を深堀りをする職人的なキャリア構築したいという場合は、様々な分野の専門家とやり取りするため、キャリアの中で一時経由するには良いですが、ずっと経営企画畑でやっていくのは向かないかもしれないので、ご自分の志向を考えた方がよいでしょう。
会計士が経営企画へと転職するには?
先ほど記載したように、経営企画という職種は、企業により仕事内容、ミッションが異なるケースが多く、求められるスキルや経験も多種多様です。
そのため、自分がイメージする仕事内容の経営企画のポジションの求人を見つけるのは難しいです。
企業の経営企画の採用実績があり、実態を知っている転職エージェントに話を聞くのが有用です。
また、企業の経営にかかわるポジションでもあるため、一般の転職サイトなどには出回らない非公開求人も多くなります。
そのため、ベンチャーだと監査法人の人脈を生かしたリファラル採用も一部ありますが、ヘッドハンター経由での転職をされる方が多いです。
ここでは、会計士が経営企画のポジションへと転職するのにおすすめの転職エージェントをご紹介します。
MS-JAPAN
会計士の事業会社への転職実績が豊富なエージェントになります。上記で記載したように経営企画のポジションは企業により仕事内容が異なるケースも多いため、会計士の転職を多くサポートしており、企業の実態を知っており、求人数も多いマイナビ会計士の利用はおすすめです。
ビズリーチ
ハイクラスポジションや経営に近いポジションへの転職を考えている会計士の方の利用が多いサイトになります。
希望職種に経営企画を選んでおけば、企業から直接スカウトがきますし、案件をもっているヘッドハンターから連絡がきます。
ヘッドハンターの話も聞いておくことで、経営企画への転職する際にどのようなスキルが必要になるのか、どのような今後のキャリアや待遇がどうなのかなどいろいろ話を聞くこともできます。
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