監査法人に勤めていると前職として比較的多かったという印象があるのが、銀行、保険会社、証券会社等の元金融機関勤務の方、公務員の方からの転職でした。
元銀行員で公認会計士試験に合格し、監査法人に入社してきた方の多くが比較的環境に満足しているようでした。
今回は、銀行員の方が公認会計士の資格取得を目指すことについて、銀行員の方が公認会計士を目指した理由や銀行員と監査業務との親和性、会計士の実務経験要件といった観点から考えてみました。
銀行員から公認会計士を目指した理由
ノルマ、仕事がきつい
銀行員、保険会社といえば、給与も高く、ひと昔前には就活生にも人気があった業界です。
元銀行員の方は、メガバングに勤めており、給与面を比較しても公認会計士とは変わらないか、むしろ高めであったはずです。
なぜ公認会計士を目指したのか聞いてみるとノルマがきつく、仕事のプレッシャーも高いということ、サラリーマンなので、上司の言うことは絶対で窮屈に感じ、このままサラリーマンを続ける気になれなかったとのことでした。
又、銀行で法人営業をやっていたのですが、営業が性格的に向いていないということもあったということです。
監査法人の仕事の感想を聞くと、前職に比べるとかなり負担が少なく、時間当たりの給与も上がり、専門職として知識や経験を積み上げていきいきと働けて自分に向いていると感じているとのことでした。
監査法人の自由さは、新卒でそのまま会計士になった方はあまり感じずらく、前職がある人程監査法人のよさを感じる傾向にあるようです。
銀行員の未来は厳しい
銀行員といえば、ひと昔前は花形の職業でした。
銀行といえば、就職ランキングでトップに位置し、安定性も高く、手堅い仕事でした。
しかし、時代とともに花形産業は変わるものです。
銀行に代替するサービスが出てきていることや、マイナス金利政策等の影響により銀行の収益性も落ちてきており、銀行各社もリストラ策を出してきています。
現状では各社積極的に人を辞めさせるというわけではなく、業務量を減らして自然減させていくという方針ですが、今後のことを考えると将来が不安になるのも無理はないでしょう。
特に20代、30代のこれからの世代の場合は、なおさらです。
UFJの2019年統合報告書によると
人員について従来は2023年度までに20%削減としていましたが、これを35%削減に上積みするや加えて、店頭事務やミドル・バックオフィスの業務見直し等により、業務量の削減を1万人超相当まで積み上げるめどが立ってきました。将来的には本部人員を大幅に削減するなど、経費構造の全面的な見直しに着手しています”
と記載されています。
又、みずほFGの決算説明資料によると大量採用世代の転出等により人員構成の適正化を進める旨記載されています。
まず新卒採用の数をみると以下のように減少傾向にあります。
2016卒 | 2017卒 | 2018卒 | 2019卒 | |
三菱UFG | 1391 | 1035 | 959 | 516 |
三井住友 | 1916 | 1347 | 803 | 667 |
みずほFG | 1920 | 1880 | 1365 | 約700 |
新卒採用を減らすと当然ながら新しく入ってくる新人の数が減ります。
そうなると現在働いている方は、今まで次の新人にやっていた仕事を引き続きやらなければならない=スキルの習得スピードが遅くなるといった影響がでてきます。
又、10年後には組織の構造が新入社員が少なく、上の年齢層が多いという逆ピラミッド型のいびつな構造になり、管理職のポストにつけない方が増える影響があります。
10年後には更に銀行の役割の代替が進んでいることが想定され、銀行の余裕もなくなり自然減では対応できず、リストラを行う可能性があります。
その際、年齢が30代後半となり、年齢に見合うスキルもついておらず、市場価値に対して年収が高い方は中々転職先が決まらない可能性があります。
その時になって年収を維持できる転職先を探そうと思っても中々見つかりません。
需要がある20代、30代前半の内に対策をとっておく必要があります。
又、銀行に勤めている友人の話では今までは50歳程度でグループ会社への転籍が行われていたがその時期がどんどん早まってきており、今は47歳程で出向ではなく、転籍となってしまうそうです。
(あくまで噂程度に考えてください。)
又、転籍先も今までは銀行との関係性が重要だったので付き合いもあり、それなりのポジションで受け入れていたかと思いますが、銀行の重要性が低下していく中で転籍先の条件も悪くなっていく可能性があるでしょう。
監査業務と銀行業務の親和性は高い
監査業務では、財務諸表に重要な虚偽表示がないかどうかをみますが、銀行も融資をする際には、本当にこの会社にお金を貸して大丈夫か与信判断を行います。
又、1年に1回必ず企業の自己査定と呼ばれる査定を行います。その際に財務分析の知識が活きます。
流動比率、固定比率といった指標は、コンピューターに入力すれば自動的に算出されますので、その意味を知っているぐらいのレベルであれば、公認会計士試験レベルの知識は必要ありません。
但し、異常な増減があったときに、勘定科目レベルで分析してそれを会計的に理論的に説明ができるかとなると別の話です。
通常のキャリアを積んで、簿記2級レベルの知識しかない方であれば、何年も経験を積まないとその域に達するには時間がかかるかもしれません。
会計を理論的に体系だって学習した経験があることでその習熟速度にかなりの差がでるのではないでしょうか。
そのため、現職の銀行員の方が公認会計士の勉強をすることは転職するに関わらず、プラスになるかと思います。
又、銀行は、文書が非常に多く、内部統制がしっかりしています。
監査法人の業務もまずは請求書や契約書等をチェックしていく仕事になるので、チェックの勘所は他の新人よりもついているのではないかと思います。
銀行での経験は、会計士の登録要件を満たす
公認会計士登録をするためには、監査等の実務経験(業務補助等)の期間が2年以上ある必要があります。
通常は、監査法人で監査経験を積むことで要件を満たすことが多く、せっかく公認会計士試験に合格しても、実務経験が積めないために会計士登録ができないのであれば、意味がありません。
その点、銀行では法人融資の業務や主計業務や開示業務等公認会計士の登録要件として満たせると考えられる業務は多く、経験を積めないというリスクは低いでしょう。
Q6 銀行や保険会社における実務従事の具体例を教えて下さい。
A6これまで、銀行や保険会社における実務従事として業務補助等報告書の提出があった業務の実例としては、(1)銀行における法人融資の業務、(2)保険会社における資産運用のための各企業の財務内容調査の業務、(3)保険会社における投融資審査、社内格付付与、業界レポート作成の業務等があります。
前職が銀行の方は、補習所を1年か2年短縮して、修了考査を早めに受けている方も多いですね。
このように合格後、公認会計士登録に支障がなく、補習所さえ修了し、修了考査にも合格すれば、早期に登録できるというのは、銀行員から公認会計士になるメリットでしょう。
仮に監査法人に転職しなくても銀行内で組織内会計士として働くという選択肢も残ります。
銀行内での仕事にもプラスになりますし、又活躍できる部署の選択肢も増えます。
しっかりとした経験を積むことができれば、仮に40代後半で出向・転籍になったとしても転職先は他の銀行員よりもかなり選択肢は多いでしょう。
銀行員と公認会計士どっち?
銀行員と公認会計士の給料の比較
銀行員の方が気になる点としては、やはり給与面でしょう。30代ともなると結婚して家庭をもっている方もいます。自分一人の話ではないので、世間的には給与の話ばかりするのは、好まれませんが、気になるポイントです。
銀行員の方がどのような企業に勤めているかにもよりますが、メガバンクの場合を想定すると若いうちは大手監査法人の方が高く、8年目ごろから銀行で順調に出世すれば同じかやや銀行の方が高くなる傾向にあります。
あくまで一例ですが、メガバンクのケースで少しだけ触れると
1年目、2年目の内は、銀行員は他の新卒と変わらず、初任給20万円ちょっと、年収でいうと350万ちょっとと監査法人の初任給30万、480万+残業代と比べると大きく劣ります。
銀行は、他の業種に比べると昇給率がよく6年目には700万程度になっています。
監査法人であれば、残業含め700万~800万程度はもらっているかとおもうので、この時点では監査法人よりもやや低いぐらいでしょう。
7年目、8年目に役職がつくと年収は950万~1,000万程度となります。全員が昇格できるわけではなく、ストレートに昇格できるのは5割~6割程度のようです。
監査法人だと順調にいくと8年目程でマネージャーに昇格し、同程度となるので、監査法人と同程度かやや高いぐらいでしょう。
10年目頃に2度目の昇格の機会が訪れ、上手く昇格ができると1,200万円程度となります。
こちらは、2割~3割が昇格と狭き門のようです。
監査法人の場合は、1,200万円を超えるのはシニアマネージャーに昇格してからで、10年目に昇格するのは、飛び級で昇格するトップレベルに優秀な方でないと難しいでしょうから、銀行の方がこのあたりで高くなる傾向があります。
但し、上記はメガバンクトップの企業で順調に言ったケースで、他の銀行によっては100万円程度は低くなることはありますし、地銀の場合はより低めになりますので、あくまで参考までに考えてください。
銀行員の昇格は昔よりも厳しくなっており、上記のようにうまく昇格できるかはわかりませんが、給与面だけでみると銀行員と大手監査法人は大きな差はないと見て取れるのではないかと思います。
給料以外の面での比較
現状の状況をみると銀行員の方は比較的報酬面で恵まれている方が多く、若いうちは大手監査法人に劣りますが、8年目以降となると報酬面で大きな差はないといえます。
目先の報酬面だけを考えると、社宅等の福利厚生も充実している銀行員の方がよいという考え方もあります。
しかし、報酬面だけで考えると大きな魅力はないかもしれませんが、元銀行員の方で公認会計士となった方は公認会計士になってよかったという方が多いように思います。
その理由としては以下が挙げられるのではないかと思います。
・給与面以外にも総合職の銀行員の方は転勤が多く、単身赴任となるリスクがあるのに対して、監査法人の場合は、希望しない限り転勤がない。
・働くチームメンバーや上司も希望すれば変えてもらえたり、銀行員と比較して働き方に自由が利くこと
・ノルマ等の精神的なプレッシャーがない
・職務を限定しない総合職としてではなく、プロフェッショナルとしてのキャリアを積むことができる。独立という選択肢もある。
又、銀行といえば、上司のいうことは絶対という風土がある会社も多いように思いますが、プロフェッショナルとしてのキャリアを積めば、会社に依存することなく、いつでも転職ができるという心の余裕が持てるというのも大きなメリットです。
報酬面の満足度というのは、最低限度の水準を超えれば、幸福度には寄与しないという研究結果もあります。報酬だけでなく、自分の働き方に合っているかも考えた方がよいでしょう。
銀行員が公認会計士試験に受かった後の転職先
銀行員の方が公認会計士を目指そうとする場合、公認会計士試験に受かったあとのキャリアをイメージしておくとよいでしょう。
銀行員が公認会計士に合格した後のキャリアについて銀行に残る、大手監査法人、中小監査法人、関連分野のコンサルや事業会社への転職といった選択肢を解説しています。
銀行に残る選択肢も
公認会計士試験に合格したからといって銀行でも会計士としての実務要件を満たせる場合は、必ずしも銀行から他業界へ転職する必要はないのではないかと思います。
大手監査法人から銀行へ転じて働く組織内公認会計士も一定数おり、主計部や内部監査部、M&A関連の部署等活躍のフィールドは多彩にあるはずです。
まずは、銀行内で活躍できる分野がないか自分の勤務先の転職求人をみてみる、社内募集がかかっていないか確認して、社内異動の可能性を考えてみるとよいかもしれません。
社内で希望するキャリアや待遇が望めない場合、転職を考えることになろうかと思います。
大手監査法人へ転職
合格時の年齢が20代や30代前半であれば、大手監査法人にいくという選択肢も十分あるでしょう。
大手監査法人では、金融部は収益性も高く、花形の事業部であり、前職が金融機関の方は、歓迎される傾向にあります。
一時的に給与は下がってしまうケースも多いかと思いますが、やはり監査は公認会計士の独占業務ということもありますし、様々な企業のビジネスや内部統制を横串を通してみれるというのは、貴重な体験になります。
一時的に給与が下がっても、公認会計士登録後に、例えばですが、銀行→監査法人金融部門→金融といった形でキャリアを積めば、キャリアの分断もなく、大幅な給与アップの可能性もあります。
又、今後、独立するにしても受託できる業務の幅が広がります。
監査業務をマニュアルが整備されており、手続きが確立されている大手監査法人で経験する意味は大きいでしょう。
中小監査法人や会計コンサルへ転職
一方で、30代後半以降の方は、かなり給与を落として監査法人に1年目として転職するというのはかなり勇気がいるのではないかと思います。特に家族がいる方はなおさらです。
大手監査法人では、通常監査業務経験がなければ、職歴があっても1年目の扱いになります。
何か特定の経験を積むという意欲がないと大学卒業したての年下の先輩に指導されるというのは精神的にもつらく、根気がいるでしょう。
そういった方で監査経験も積みたい方は、大手監査法人ではなく、これまでの経験を活かしながら監査業務も経験できるというコンサル要素の強めの中小監査法人や会計コンサルの会社を探してみるとよいのではないかと思います。
銀行員の方といっても窓口業務、法人営業、融資、経理等の管理部門といった様々なキャリアがあります。
これまでの経験を活かした分野のコンサルや事業会社へ
銀行員の方によっては、関連会社へ出向し、企業再生や運用、M&Aの経験を積んでいる方もいます。
M&Aや企業再生の経験がある方であれば、あえて監査法人にいくよりもこれまでの経験を活かしたコンサル会社へコンサルタントとして転職をした方がよいケースもあるでしょうし、現職にとどまってより経験がつめそうであれば、そのまま残るという選択肢もあります。
主計や内部監査、コンプライアンス関連の経験があれば、監査法人系列のアドバイザリーや事業会社へ転職するという選択肢もあります。
US-GAAPを採用している会社での経理経験があれば、IFRSやUS-GAAPの財務報告作成支援のアドバイザリーやJ-SOX、US-SOXへの対応支援を手掛けている監査法人系アドバイザリーで経験者採用されれば、一時的にせよ待遇が大幅に悪化するといった事態も避けられるかと思います。
銀行本部で金融庁や海外当局等からのバーゼル・ISDA等の規制対応経験があれば、金融規制対応アドバイザリー等の可能性も広がります。
又、地銀で経理経験があれば、資格だけだと評価されないこともありますが、実務経験が伴うと転職時にも評価されるため、公認会計士登録後にメガバンクの主計等の同業へ給与を上げてキャリアアップするといった選択肢もあるでしょう。
何を重視するかで次のキャリアを考える
銀行員としての経験があり、公認会計士資格があれば、引く手あまたで少なくとも職に困ることはないかと思います。
銀行内でこれまでどのようなキャリアを積んできたか、銀行でのこれまでの経験が会計士としての実務経験を満たすか、働くうえで何を重視するのか個々人の状況により異なってくるかと思います。
お金を稼ぎたいからなのか、専門家として働きたいのか、はたまた独立を目指してなのか自分が何を目的として公認会計士を目指したのかよくよく考えてみるとよいでしょう。
まとめ
上記でも触れたように報酬面だけで考えると銀行員から公認会計士に転じる大きな魅力はないかもしれません。
しかし、今後銀行を取り巻く環境が悪化していく中で、銀行の報酬面が維持されていくかは不透明です。
60歳が定年でリタイアという時代とは異なり、就労年齢がどんどん伸びていくことが想定されます。
銀行での出向年齢がどんどん低年齢化していることを考えると、60歳以降も個人の技量で働くことができる公認会計士を目指すのが報酬面でも長期的によいという考えは十分成り立つのではないかと思います。
銀行員のままでいるにしても、公認会計士試験に通っていれば、積めるキャリアの選択肢は広がりますし、大きなプラスになるでしょう。
又、職務を限定しない総合職として就社するのではなく、専門職として働くことができるのが魅力です。
特定の会社にとらわれなくてもどの会社でも又は個人でも働くことができるという精神的な独立性が高い、失敗してもやりなおしがきくという点が専門性が高い士業の大きなメリットではないかと思います。
下記で会計士を目指すうえで必須の専門学校の比較をしています。
もし興味を持った方は参考にしてください。
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